Novels

先祖返りの町作り ~無限の寿命と新文明~

第154話 あすふぁると

 セネブ村から帰還きかんした私はそのままダイガクへと直行し、学生たちに手伝てつだってもらいながら原油げんゆ研究棟けんきゅうとうまで運び入れた。

 それから、連絡れんらくを回して手のいているキョウジュたちに集まってもらい、研究者をつのるための説明を始めた。

「この原油げんゆは、様々なものに応用できる宝箱たからばこです」

 私は頭の中で応用おうよう範囲はんいを思いかべ、何が彼らに最も受け入れられやすいだろうかと考えを進めていく。

「例えば、丈夫じょうぶ透明とうめいな上に割れない容器ようきが作れるようになります。また、これを使えば、物理学部で教えている『コンデンサ』などの『電気』部品を動かすための『電力』を、大規模だいきぼに作れるようになります」

 そのように説明を加えていきながら手ごたえを確認していると、数人の研究者が興味きょうみをひかれ始めたようだ。

「ただ、私がすぐにでも始めたいのは『アスファルト』の研究です。これができますと、たいらで頑丈がんじょうな道が比較的ひかくてき安価あんか建設けんせつ可能かのうになります。そうすると、物流ぶつりゅうの速度が飛躍的ひやくてきに上昇しますので、この都市がさらに発展はってんします」

 その後、名乗なのりを上げてくれた数人の研究者に、あすふぁるとを作るための基礎的きそてき内容ないようを説明してゆく。

 あすふぁるとを作るためには、まずは数種類の油を分離ぶんりしなくてはならない。これの一般的な方法には、蒸留じょうりゅうの一種である分留ぶんりゅうと呼ばれる方法が使われる。

 くわしい温度まではおぼえていないが、温度の低い方から順番にガソリン、灯油とうゆ軽油けいゆちゅうしゅつされ、残ったものが重油じゅうゆとして船舶せんぱくを動かすための燃料ねんりょうなどになり、そこからあすふぁるとが作れるはずである。

 また、この分留ぶんりゅうに必要になってくる温度計としては、現在、すでにある水銀すいぎん温度計おんどけいが使えるはずだ。

 今の圧力あつりょくが加えられていない水銀すいぎん温度計おんどけいでも、確か三百五十度くらいまでは計測けいそくできたはずだと記憶きおくしているので、なんとか軽油けいゆ分留ぶんりゅうまではできるのではないかと考えている。

 私はわすれてしまっていたのだが、正確な分留ぶんりゅうの温度は以下のようになる。

 三十度から百八十度でガソリン。

 百七十度から二百五十度で灯油とうゆ

 二百四十度から三百五十度で軽油けいゆである。

 これに対し、圧力あつりょくの加えられていない水銀すいぎん温度計おんどけい計測けいそくできる範囲はんいは、マイナス三十度から三百六十度である。

 つまり、ギリギリではあるが分留ぶんりゅうが可能である。

 これらのうち、ガソリンは揮発性きはつせいが高く発火はっかしやすいため、しばらくは使い道がないと考えられる。

 ガソリンエンジンが作れたらベストだが、今後の課題かだいとして保留ほりゅうとすることにした。

 灯油とうゆについては、ランプ用の油としても使えるし、いずれは石油ストーブも作ってみたい。

 また、現在は室温計しつおんけいとしてしか使われていないアルコール温度計に使えば、もっと広い範囲はんいでも計測けいそくできるようになるため、水銀すいぎん温度計おんどけいよりも安全な温度計として普及ふきゅうさせることもできるだろう。

 軽油けいゆの使い道も要研究ようけんきゅうである。いずれはディーゼルエンジンを作ってみたいと考えているが、これも今後の課題かだいだろう。

 あすふぁるとの作成のための基礎きそ研究けんきゅうをダイガクの研究者たちに任せ、私は実際じっさい建設けんせつする時に必要になってくる大型のローラーの魔道具などの研究を開始した。

 今後の大きな発展はってん期待きたいできる研究けんきゅう内容ないように私のむね高鳴たかなり続け、寂寥感せきりょうかんを感じるひまがないほどに私は研究に没頭ぼっとうしていった。