先祖返りの町作り ~無限の寿命と新文明~
第155話 新たな開発目標
原油の発見から、五年の歳月が流れ去っていた。
未だにあすふぁるとは完成していない。
三種類の油の分離については、比較的、簡単に実現できたのだが、そこから重油とあすふぁるとの原料に分離することが、どうしてもうまくいかなかったのだ。
ダイガクの研究者たちと一緒になって試行錯誤を続けているのだが、まだ、これはという成果は出ていない。
研究に行き詰まりを感じた私は、ヒデオ工房の工房長の部屋で、一人、何か突破口はないかと思索を続けていた。
「そういえば、原油の『分留』は、『常圧蒸留』と『減圧蒸留』の組み合わせだと、どこかで聞いたような気がしますね……」
前世の記憶を思い出していた時、ふと、独り言ちていた。
「それです! 『減圧蒸留』です!!」
現在、行っている分留は一気圧下での蒸留、つまりは常圧蒸留である。
大気圧下での分留が難しい成分については、気圧を下げることにより、沸点を下げて分留するはずだ。
つまりは、減圧蒸留である。
気圧を下げる減圧器を作ったことはないが、気圧を上げるこんぷれっさーの魔道具は、レイゾウコの魔道具で既に作っている。
原理的に同じ構造で作れるはずだ。
「そうと分かれば、早速、試作です!」
善は急げとばかりに、私はそのままの勢いで、ゲンアツキの魔道具の試作に取り掛かった。
手がかりさえ掴めたら、後は早かった。
それから二年ほどが経過する頃になると、基礎研究がほぼ完了していた。
現在は、ダイガクの敷地内に試験的なあすふぁるとの道路を設置していて、効率的な施設器具の開発や、耐久度のテストなどを行っている。
いずれは、この領地内部の主要道路やセネブ村までの道を舗装したい。特に、セネブ村までの道の舗装は急務になってくる。
というのも、現状では原油の輸送が大量に行えないため、あまり長い道はあすふぁると舗装できないためである。
ただ、セネブ村までの街道を、いきなりあすふぁると舗装してしまうには、いろいろと無理があると考えられる。
そこで、まずは測量を行い、セネブ村までの石畳の街道を建設する予定になっている。
そうやって、原油の輸送量をある程度確保した後に、少しずつ主要道路や街道の舗装を行っていくつもりだ。
また、あすふぁるとの副産物として、各種の油の有効活用方法も考えていかなくてはならないだろう。
このうち灯油については、上質なランプ用の油としての販売と共に、石油ストーブの開発も既に始めている。
電動のファンヒーターは無理でも、昭和の時代の手回し式のものであれば、現在の技術力でも作れるだろう。
灯油をしみ込ませた芯に火を点け、それをダイヤルで回して伸び縮みさせて火力調整する、昔ながらの石油ストーブが目標である。
また、ガソリンなどの残った油については、当面の間は焼却処分するしかない。
しかし、ただ燃やすだけではあまりにももったいないので、火力発電の基礎研究も開始する必要があるだろう。
扱いやすいのは直流電流になるのだが、これは送電距離の影響をモロに受けてしまう。
そのため、将来を見据え、送電のしやすい交流電流を発生させる発電機の開発を始めることにした。
ただ、この場合は、交流を直流に変換する回路も必要になってくる。これには、コンデンサとダイオードが必要だ。
コンデンサは比較的簡単に作ることができるのだが、ダイオードが問題になってくる。
真空管のものならば作れるのだろうが、私はその原理などを良く知らない。そのため、半導体のダイオードを作る必要が出てくる。
半導体を作るためには、その材料として、高純度のシリコンかゲルマニウムの結晶が必要になる。
現代の地球では、シリコンの半導体が広く使われている。
これは、原料の調達が容易であるためだ。極端な話、そのあたりに転がっている石ころを拾ってくれば、シリコンは調達できるのである。
ただ、シリコンは高純度の結晶を作るのが難しい。
そのため、比較的、作成難易度が低くなるゲルマニウムの結晶作りの研究から開始しなくてはならないだろう。
「またしても、開発目標を欲張りすぎですね。一歩ずつ、しかし、着実に進めていきましょう」
ガイン自由都市のさらなる発展に確かな手ごたえを感じ、私は、日々、研究と開発に邁進している。