先祖返りの町作り ~無限の寿命と新文明~
第182話 シズカの横顔
私の名前はシズカ。シズカ・ウル・ガインです。
ガイン自由都市の六代目領主をなさっているリョウマお父様の娘として生まれました。
そして、私たち、ガイン家に生まれた女には、物心つく頃に言い含められる家訓があります。
「大おじい様にその恋心を伝えてはならない」
ガイン家の初代は、言わずとしれた大おじい様です。
その大おじい様は不老の種族であるアルク族の先祖返りなのですが、私たち子孫のことを、とても愛してくださっています。
それはとてもいいことなのですが、やがて、私たちは知ることになります。
大おじい様とは血の繋がりがないことを。
その時、私たち、ガイン家の女たちはみんな同じことを考えてしまいます。
それなら、私が大おじい様のお嫁さんになってもいいのでは?
大おじい様は私たちをとても慈しんでくださいますが、それは子供や孫としてです。
そんな相手から、真剣にお嫁さんにしてくださいとお願いされても、大おじい様は困ってしまうというのです。
一回や二回ならいいのかもしれませんが、何度もしつこくお願いしてしまうと、最悪の場合、大おじい様がこの家を去ってしまうかもしれないと言われています。
自分の存在が私たちに悪影響を与えていると考えられてしまったら、もうダメなのだとか。
なので、ガイン家の娘たちには、最初から教えられるのです。
初恋の相手が大おじい様になるのは仕方がない。だけれども、それは絶対に叶えてはならない恋なのだと。
私たちは生まれた時から初恋の相手が決まってしまっていて、それがすぐに失恋へと変わるのが宿命なのだと。
私も子供の頃に思い知らされました。
この言葉の意味することを。
そして、先祖代々伝えられているこの家訓には、さらに続きがあります。
私たちはブラコンになりがちなので、そこにも注意するようにと。
私たちの兄弟は、次期領主として育てられます。
その時、領主教育に大おじい様が積極的に参加されて、いろいろと教え導いてくださいます。
その結果、初恋が失恋へと変わってしまった私たちには、大おじい様に直接教えを受ける兄や弟が、小さな大おじい様に見えてしまうのです。
私もその気持ちは良く分かります。イサミお兄様が、とても素敵な男性に見えていますから。
正直に言えば、お母様のティータがとても羨ましい。
叔母様のフィーナと姉妹のように育ったお母様も、リョウマお父様のことを兄として認識していたはずです。
ですが、お母様は幸いにして妹ではなく、従妹だったので、ちゃっかりとお父様の妻の座を射止めてしまいました。
私も、可能であれば、イサミお兄様の妹ではなく従妹として生まれたかったと考えてしまうぐらいには、ガイン家の女なのでしょう。
そんな私ですが、無事に結婚することができました。
変態どもにたくさん言い寄られて困っていた私は、男性が苦手になりかけていたのですが、そこを変えてくださったのも大おじい様でした。
あいつらを撃退する具体案を授けてくださった時には、思わずその胸に飛び込んでしまったのですが、そこは、世界一、安心できる場所でした。
だらしなくニヤけてしまう顔を隠すように、そして、その感触を確かめるように、大おじい様の胸にしばらく頬ずりをしてしまいました。
名残惜しかったのですが、いつまでもそうしているわけにはいきませんので、決意を込めて、最後にギュッと抱きしめて終わりにしました。
そして、上機嫌のまま、大おじい様に勧められた条件にぴったりの相手として、今は旦那様になっているザインに告白しに行きました。
ザインは、その強さの種類こそ大おじい様とは全く違っていますが、その根幹となる雰囲気がどこか大おじい様に似ていまして、前から気になってはいたのです。
とても強いのにそれを、一切、誇ることもなく、優しい雰囲気で周囲を和ませてくれます。
そんなところが私は気に入ってしまい、そのまま結婚までしてしまいました。
今の私は幸せです。
これからも、この幸せを守るべく、大おじい様のように家族を大事にする奥さんを目指したいですね。