先祖返りの町作り ~無限の寿命と新文明~
第183話 新技術への期待
それから、一年ほどの月日が過ぎ去った頃。
研究開始から十六年が経過していた浄水場の建設が、ようやく完了していた。当初の予定よりもかなりの時間がかかっていたのだが、これは、私が開発を欲張ってしまったからだ。
せっかく安全な水が飲めるようになるのだからと、近代的な水道管と蛇口の研究も進めていたのである。
これをしようと思いついたのは、いくつかの基礎技術が進歩していたからだ。
例の私の肝いりとして始まった扇風機の羽の研究が大きく進み、水を効率よく一方向に流す羽が開発できていたのだ。
これを使えば、水道管に圧力を加えることができるのではないかと思いついていた。
また、この羽を使うことにより、取水口のポンプの改良もなされており、魔力効率がかなり上がっている。
この羽を回す回転力には、魔道具のモーターがそのまま利用されている。可能であれば、コストの安い電気モーターに置き換えたかったのだが、トルクなどの性能が足りなかった。
この部分を改良するためには、永久磁石を強力なものにする必要がある。そのためには、レアアースと呼ばれる鉱物が必要になってくる。
しかし、私はその鉱物の具体的な名前や採掘場所などを知らない。
そのため、永久磁石の改良は長期研究課題としていて、ダイガクでじっくりと腰を据えて研究を始めた段階である。
ちなみに、既に設置しているガス管については、これまで通り、コンプレッサーの魔道具を応用したものを利用して圧力を加えている。
つまり、風を直接操作する魔法を応用しており、これについても電動化されていない。これは、風を送る羽の技術力の問題というよりも、風魔法の効率が良すぎるためだ。
もう一つの注目すべき研究成果としては、旋盤が挙げられるだろう。
これは、小さな魔法文字を刻むための研究から生まれた。
細かい金属加工ができる機械の開発が行き詰まりを見せていた時、私のところにキョウジュが相談に来たので、前世の旋盤のイメージを伝えたことがあった。
その僅かなヒントだけを頼りに、研究者と技術者が協力しあい、見事な研究成果を上げていた。
これにより、ある程度、複雑な金属加工が効率的にできるようになったため、蛇口の開発が行えるようになったのである。
ちなみに、蛇口に使われるパッキンには、レイゾウコの開発時に作成して以来、大活躍中のゴムの代用品が使われている。
しかし、このゴムの代用品は、前世のゴムほどの品質は持っておらず、少し高い圧力を加えると水漏れが発生してしまっていた。
そのため、水道の蛇口をひねった時の水の勢いに不満があった。
しかし、私以外の研究者たちにはどこが問題なのかが理解できないようで、レイゾウコの時と同様に、私の技術者としてのこだわりが過ぎていると判断されていた。
そして、今、徐々に従来の上水道を水道管に置き換える工事が続いている。水道管が施設できた地域から、順次、蛇口を設置中だ。
その結果、蛇口をひねるだけで上質な飲み水が得られるようになり、ガイン自由都市では平民でもお貴族様のような生活ができると、大好評になっていた。
貴族たちによる厳しさを増す締め付けにも関わらず、その噂を聞きつけた移住者が増加しており、貴族と平民との間の火種が、だんだんと大きくなっていった。
しかし、ガイン自由都市の内部に限れば平和そのもので、みんな我が世の春を謳歌していた。
次々に開発される新技術に期待感が膨らみ続け、より良い未来への予感から、領民たちはみんなそろって笑顔であった。
ダイガクでの研究成果が実用化されるたびに、私は高等教育機関の重要性を再認識していた。
そして、これまでの研究成果を見返してみた結果、ダイガクの研究者たちが十分に育っていると確信し、基礎的な研究範囲は彼らに任せることにした。
その代わり、私は経済の発展に直結するような応用研究に、次第に没頭するようになっていくのであった。