先祖返りの町作り ~無限の寿命と新文明~
第184話 弱まる権威、強まる火種
この頃になると、ガイン自由都市以外の領地への本の流通も少しずつ増大を続けるようになっており、それらの知識を得た平民の発言力が高まりを見せていた。
その結果、それまで知識を独占していた貴族たちへの不信感も高まっていき、徐々にではあるが、貴族の権威に陰りが見え始めていた。
そんな状況に加えて、ガイン自由都市での平民の生活水準が噂となって広まりも見せており、今の領地での生活との落差に嫌気がさしてしまい、我らの領地へと移住するものが激増していた。
その状況がまずいと貴族たちが気づいたのは、税収が年々減少する傾向がはっきりとしてからであったというのだから、いかに貴族どもが平民に関心がないのかが裏付けられたとも言えるだろう。
遅まきながらも現状の悪さに気づいた大半の貴族たちは、自領の平民の移動を厳しく制限するようになっていった。
しかし、貴族に頼らなくてもやってゆけると、もう既に知ってしまっていた平民たちは、それには、もう、素直に従わなくなっていた。
こっそりと財産を売り払い、貴金属などの換金性が高く、嵩張らないものに交換し、夜中に警備の隙を見て逃げ出してしまうものが多くなっていた。
やがて、夜逃げ専門の業者まで設立されるようになり、ガイン自由都市に堂々と本店をおいて営業している始末である。
彼らは、領地の維持には必須の行商人や運送業者として普段は行動していて、荷物に紛れて平民たちを脱出させていた。
料金も、比較的、良心的ではあったのだが、それでも一般的な平民の農民には負担が大きかった。
それについても、高度な教育を修めているガイン自由都市の商人たちは、独自の解決策を用意していた。
夜逃げが完了した後の就職先の斡旋も行っていて、提携している職場に就職した場合は、その給与の一定割合を報酬として、一定期間、徴収する形をとっていた。
つまりは、一種のローン払いのような形態を採用していたのだ。
経済規模が拡大を続けているガイン自由都市では、常に人手不足に悩まされていたため、この夜逃げ業者による職業の斡旋はだんだんと人気を博していき、やがてそれが発展して人材派遣会社のようなものも設立されるようになっていった。
そのような状況に貴族たちはさらに憤るようになり、そもそも平民が余計な知恵を持っているのが悪いのだと、焚書も各地で盛んに行われるようになっていった。
しかし、平民たちは貴族たちの想像以上にとても強かになっていて、偽物の本を派手に燃やして対抗していた。
ガイン自由都市には、焚書用として知識本の表紙だけが用意されていて、中身が白紙の別売の紙の束と組み合わせることにより、お好みの本の形だけを取り繕えるようにする商売までできてしまっているのだとか。
平民たちにとっては、これによってささやかながらも貴族たちに意趣返しができると考えているようで、不満のガス抜きにも役立っているようだ。
これらの本の表紙だけの部分は、年々、売り上げが上昇している模様で、今では本屋に専門のコーナーまで作られているのだとか。
ちなみに、私が焚書に怒り狂って大暴走してしまった話がガイン自由都市の外にも広まってしまっていたらしく、これらの焚書用の本は、初代様を宥める本とも呼ばれているのだそうだ。
平民のことを詳しく知ろうともしない貴族たちは、そんな平民たちの逞しさにも気づくことなく、反発を強めるだけの弾圧を加え続けるようになっていくのであった。