先祖返りの町作り ~無限の寿命と新文明~
第185話 デンキジドウシャ
ダイガクで様々な発明がなされ、それが実用化されている現状を考えて、私は自分の研究分野をこの都市の発展に直結するようなものにしていくことにした。
ダイガクの自分の研究室で、一人、これからの研究内容についての思索を続ける。
「現状で、ガイン自由都市の発展の妨げになっていそうな問題点は、何になってきますかね……」
これについては、すぐに答えを思い浮かべることができた。
「やはり、原油の輸送が一番の問題ですね」
あすふぁるとの道路を施設したので、物流事情は大幅な改善を見せている。しかし、それ以上に原油の需要が伸びてきているため、そろそろ馬車で運んでいたのでは供給が逼迫する恐れが出始めていた。
「そうなると、『自動車』ですかね?」
理想を言えば、機関車を作って大規模な列車輸送を行いたい。
しかし、いきなり大型の輸送機械を作ろうと思うと、超えなくてはならない技術的なハードルが高く聳え立ってしまっている。
そこで、自動車を作ってトラック輸送ができないかと思考を進めてみる。
「『エンジン』については、理想は『ガソリンエンジン』や『ディーゼルエンジン』などの『内燃機関』になってくるのですが……」
内燃機関と呼ばれる種類のエンジンを作るためには、かなり高度な加工技術が要求されてしまう。やっと旋盤が実用化されたぐらいの技術水準では、まだまだ無理だろうと判断を下さざるを得ない。
「と、なると、部品点数が少なくなる『電気自動車』ですかね?」
モーターを利用した電気自動車であれば、いろいろと部品を省略できることもあって、工作難易度がぐっと下がるだろう。
ただ、現状の電気モーターの性能を考えると、本物の電気自動車を作成するのは無理になって来る。だが、魔道具のモーターを利用すれば、いける気がする。
私はこの方向で、実現可能そうなものについての考えを進めていく。
「一番の問題は、『トランスミッション』になってくるでしょうね。かなり簡略化できるとはいえ、それでも工作難易度は高くなってくるはずです」
トランスミッションは、ギアチェンジに使われる部品である。
近年ではAT車が主流のため、意識することは少なくなっているが、あれは自動でギアチェンジしているだけで、トランスミッションが無くなったわけではない。
そして、電気自動車では、変速ギアが省略できる。
一応、高級モデルになってくると、二段や三段変速のものもあるのだが、一般的には一速だけで十分だろう。
しかし、自動車の形状を取る以上、バックギアだけはどうしても必要になって来る。
「いっそのこと、『モーター』に直結してしまいますか」
後輪を駆動輪として、左右の車輪に魔道具のモーターを直結するようにすれば、部品点数を大幅に削減できるだろう。
この方式であれば、バックする時はモーターを逆回転させるだけで良くなる。
また、車輪の軸受けの部分には、発電所の開発時に作ったボールベアリングが、そのまま応用できるだろう。
「この他に開発が難航してきそうなものと言えば、『サスペンション』と『ゴムタイヤ』ですかね?」
サスペンションとは、衝撃を吸収するための部品である。
これに使われるダンパーと呼ばれる部品の作成が、少し難易度が高くなると考えられるが、それでも内燃機関のエンジンやトランスミッションと比較すれば、そこまで難しいとも思えない。
ゴムタイヤについては、どうにもならない部分になってくるだろう。天然ゴムの木でも見つかればいいのだが、そうではない以上、代用品でなんとかするしかない。
鉄製のホイールの周りに、ゴムの代用品を薄く塗りつけるぐらいしか方法がないと思われる。
「他に重要そうな部品は……」
何か見落としがないか、もう一度考えをまとめてみる。
「あっ! ブレーキを忘れるところでした」
当然ながら、自動車にはブレーキが必須である。
これについては、油圧式のものを用意すれば、そこまでの工作難易度になるとは思えない。
「ふむ……。少し長めの研究になってきそうですが、なんとかなりそうですね」
いくつかの新技術の開発が必要そうではあるが、現在の工作技術でも作れそうだと判断を下す。
「では、早速、研究開始です!」
私はさらに発展したガイン自由都市を思い浮かべながら、張り切って研究を開始したのであった。