先祖返りの町作り ~無限の寿命と新文明~
第186話 ヨウセツ
電気自動車の開発を目指してから、およそ一年の時が経過した頃。
今後の開発を行うにあたって、とある問題点が浮上してきていた。それは、部品を接合する技術の問題である。
現在は鍛接と鋳掛と呼ばれる、伝統的な接合方法が使用されている。
私も魔道具師として金属加工を行っていたため、この点に特に疑問を感じていなかった。
しかし、今後、自動車産業を立ち上げていくにあたり、これらの方法だけでは効率が悪すぎると、やっと気づいたのだ。
そこで、なんとか近代的な溶接技術を開発できないかと考え始めていた。
ただ、当たり前のことではあるのだが、溶接するためには金属を溶かすほどの高温を、狭い範囲に発生させなくてはならない。
現代の地球では主にアーク溶接と呼ばれる方法が使用されており、これは、アーク放電と呼ばれる現象を利用している。
しかし、残念ながら、どんな原理を用いてこの現象を発生させているのかの詳しい仕組みを、私は知らない。
しばらく考え続け、ガス溶接と呼ばれる方法を採用することにした。これは、読んで字のごとく、ガスを燃焼させて金属を溶かし、溶接する方法である。
アーク溶接と比較した場合、火花が少ないために溶接部分を確認しやすく、溶接不良が起きにくいという利点がある。
しかし、アーク溶接よりも広い範囲を熱してしまうため、局所的な溶接には適しておらず、溶接速度も遅いという欠点もある。
しかし、現在の伝統的な手法よりははるかにマシだと判断し、なんとかこの方法で実現できないかと考えを巡らせる。
現代のガス溶接では、比較的、高温を作りやすいアセチレンガスが多く使われていたはずだ。
しかし、理屈の上では、この都市でも容易に手に入る水素ガスでも代用が効くはずだ。
このための研究をダイガクに依頼していたのだが、とりあえずの代用品として、魔道具形式の溶接機を作ることにした。
氷やお湯を作る魔法があることから分かる通り、温度を変化させる魔法式の命令セットが存在している。
そのため、これを大幅に加熱させる方向に魔力を割り振れば、ガス溶接機の様なものが作れるはずだと考えたのだ。
実際に作ってみると、比較的、容易に完成を見ることになった。しかし、致命的な欠点も判明していた。
魔力効率が悪すぎたのである。
最低でも、森アルク族の魔石が必要になってくるほど、大量の魔力を必要としたのだ。
しかし、このようなものを水素ガスで作って欲しいというサンプルにはできたため、私の自作の魔石を利用して無理やり作動させている。
私の保有している金属加工の技術を応用して、自分で新しい溶接の技術も開発していて、ダイガクで実演して、目指すべきものの説明を行っていた。
「とりあえず、必要最低限の道具の開発は、以上になりますかね?」
私はそのような独り言を呟き、さらなる研究開発に邁進するのであった。