先祖返りの町作り ~無限の寿命と新文明~
第208話 とらんじすた
それから、季節がまた一巡した頃。
五十五歳になっていたイサミは引退を決意し、ヨシツネへと領主の座を譲った。ここでも一族の伝統に則り、初代の私の目の前で引継ぎが行われた。
八代目領主となったヨシツネは、以下の様に抱負を語っていた。
「大おじい様の理想とする都市が、どこまでのものになるのか、私には理解しきれていません。ですが、それでも、私の代でなるべく実現させたいと思っています」
そんな、とても嬉しいことを言ってくれていた。
そして、この頃。私を狂喜乱舞させる研究成果が、ついに発表されていた。
ゲルマニウムを用いた、ダイオードが開発されたのである。実に六十年以上の歳月をかけた基礎研究が、ついに実を結んだのだ。
ちなみに、半導体を作るためには、純度の高いゲルマニウムやシリコンの結晶をいったんは作る必要がある。
しかし、それだけであれば、実はそれほど意味がない。
これらの結晶に、わざとアルミニウムやリンなどの不純物を、少量、混ぜ込む。この時に混ぜるものによって、p型やn型と呼ばれる半導体が作成できるのである。
そして、これらを組み合わせることによって、ダイオードなどの基礎的な電子部品が作成できるようになるのだ。
「ですが、名誉学長。これが、そこまで喜ばれる成果になるとは、とても思えないのです。私たちには、どうにもこれの使い道が分からないのですよ……」
このように、開発者のキョウジュは語っていた。
元々ダイオードは、交流の発電所を作った時のためにと、開発していたのが始まりだ。
電流を一方向にしか流さないこのダイオードを、直流電源を使っている現在の電気製品で使うところが分からないと言われた。
「『ダイオード』だけなら、そうかもしれません。ですが、この『半導体』の技術があれば、比較的、簡単に『トランジスタ』が作れるようになるのです。そして、この『トランジスタ』があれば、安価なデンキ式のデンタクが作れるようになります」
トランジスタさえあれば、比較的、容易に加算器や減算器、フリップフロップと呼ばれる記憶素子が作れるようになる。
私の前世での専門はソフトウェアだったと思われるため、ハードウェアについては、ごく基本的な内容しか記憶していない。
しかし、これら三つの回路図については、その基本的な内容に含まれているらしく、私の記憶に存在していた。
そして、これら三つの回路を組み合わせれば、本物の電卓、電子卓上計算機が作れるはずだ。
掛け算とは足し算の繰り返しであるし、割り算とは引き算の繰り返しになる。
つまり、四則演算のそろった電卓が作成可能になるのだ。
地球の歴史では、真空管や、リレーと呼ばれる物理的なスイッチを利用した計算機を順に作っていた。そして、真空管やリレー式の計算機は、かなり大きなものになってしまう。
しかし、トランジスタがあれば、それらを一気に飛ばして、机の上に乗るサイズのものが作れるようになるのである。
また、トランジスタを利用すれば、電流を、見かけ上、増幅させることもできるようになる。これは、アンプとして使えるため、スピーカーやマイクも作れるようになるだろう。
「さあ、次の夢の広がる研究を、早速、開始しましょう!」
私は研究者たちに発破をかけ、新たな夢に向かっての邁進を続けるのであった。